岩手県立美術館をあじわったあと角館へ帰るまでのドライブのおもいで。

盛岡で一泊した東横インは朝ごはんを無料でつけてくれていた。とはいえ無料だけあってあまり食欲はそそらなくて、すこしのサラダ、炒り卵、りんごを数カットだけたべた。腹ペコのままとはせずに美術館をたのしみはしつつ、おなかの空きはじめもはやくて、はやめに帰路につく。

お昼はじゃじゃ麺を食べてみようと決めていた。盛岡城跡のあたりにある白龍(パイロン)は老舗でおいしいよときいたことはあったけど、立地が美術館からは駅をはさんで反対側になってしまう。美術館のそばにもじゃじゃ麺を食べさせるお店はすくなくともふたつあって、そのうち「ちーたん」はすこし有名ということを耳にはさんだ。美術館からは7分程度のドライブだ。

空いているお席へどうぞ、と促されてみると、テーブルはたいがい埋まっていて、四人掛けのテーブルだけが空いているのに掛けさせてもらった。朝がすくなかったぶん、といって大盛りをたのんで待つあいだ、おすすめの食べかたを書いたチートシートを読んだ。まわりのひとはどういうスタイルで食べるのかなと目でうかがったけれど、ちょうどこれから食べはじめるというひとはひとりもいなくて、見つかったのはただぼくひとりが配膳を待っている状況だけだった。

もりもりの熱い麺、そのうえにたっぷりのネギ、あとキューリにおろし生姜。皿うどんというとかた焼きそばの意味になるけれども、これがほんとうの皿うどんでは? とおもいながら、おすすめの食べかたにならって、肉味噌におろし生姜をまぜまぜして、ちょっとの酢で溶かしながらうどんに絡めていく。均一に混ざりきるよりもはやく食べてしまいたくて、食べては混ぜ、混ぜては食べたら、やや平たいうどんは茹で汁ともども味噌によくからんで、ほどよく濃い味はたっぷりのネギを味方につけて、するすると喉を通り過ぎていった。

ひとくちぶんくらいの麺を残したら、テーブルに備えてあるお椀から生卵を取り出して、うどんの皿のうえで混ぜて、手をあげて知らせたらお店のひとがそのうえにスープを注いでもってきてくれる。これがチータンタンといってじゃじゃ麺屋さんの定番みたいで、追加注文という体にはなるけど、まわりのひともみんな頼んでいる。むしろ追加注文しないで席を立ったひとは「チータンしなくていいの?」と心配されて「おなかいっぱいになってしまって…」と謝りながらいくようすだった。じつにおいしく身体をあたためた。満腹にしてもらった。

盛岡から奥羽山脈を越えるのは、単に国道46号をまっすぐ走っていけばいい。高校生までのとき、年にいちどかその程度の頻度で盛岡イオンに映画かなにかを見に行くのに母に運転してもらったのと変わらない道は、たかだか十年そこらというよりも千年とか使われ続けてきた峠道だ。ツーリングマップルは国道の標識のそばに「秋田街道」やがて「角館街道」と書いていて、その別称も味があるものとおもわせた。

だらだら坂をのぼるようにして粉雪がちらついている盛岡から街道への入口を進むとき、大型車が法定速度でのろのろ進むのを先頭にした列のうしろについてのろのろ進んだ。車線が減るまでにほとんどの車はどこかにいなくなって、サーモンピンクのライトバンのうしろについて、めずらしいカラーですねとながめながら雫石まで走った。雫石の道の駅で、南部せんべいと地ビールをおみやげに買う。いつのまにか地吹雪みたいな天気がはじまって芯から冷える。

県境のトンネルを越えるといよいよ奥羽山脈の西側で、吹雪は強まった。ヘッドライトを点けずに向かって来られると、対向車線の車は奇襲みたいにすぐそばに飛び出してきてみえて、おっかない。とりあえずこちらは点灯してやったけど、周りは鉄騎兵だらけで、なかなか慣れない。そもそもこの道を自分で運転するのははじめてで、まして吹雪のなか走るのなんて輪をかけておっかない。左右は真っ白でまぶしいくらいなのに、ほとんど視界がとれない。

とはいえ、下り坂を走る車の列は法定速度をぴったり守って安全第一に進んだ。ほとんどアクセルはさわらないで、ギア変更だけで車間の調整をできるのをちょっとした娯楽だとおもって降りた。標高が低くなると吹雪はやわらいだようで、いちめんの田んぼがあるはずの空間から地吹雪が吹きあげるのはいっそう厳しくて、いつまでも鈍行で進んだ。

クロネコヤマトの営業所がみえたらそこからははっきり見覚えのある道で、このあたりに小学校の友だちの家があったんだよなあ、どこだったっけ、とおもいながら進んだら、まったく見覚えのない自動車専用道路の入口が口をあけていた。標識によると市街には直進とあるから直進してよさそうなところ、前後の車は軒並みそこへ進まずに逸れていって、妙に心細く新道をいった。知らない道と地吹雪のせいで二重に現在地の勘をわからなくしながら、まあ遭難はしないじゃろうと適当に道なりにいったら、いきなり桜並木の道に出て、そこが町の中心だった。

近所のセブンイレブンにいちど駐めて、もう着くけど駐車場つかっていい? と家に電話したら、いいぜといわれた。その駐車場はただでさえ反転クランク走行をして針の穴を通すみたいに入庫しないといけないのに、いまは雪囲いがいっそう経路を狭くして、積雪はタイヤをやすやす動かせないように妨害して、異常な難易度の駐車に仕立ててあった。右に進もうにも左に進もうにも衝突防止センサーがピーピー大騒ぎして立ち往生になった。弟が家から出てきたのにまかせていれてもらった。スルッといれたのをみて「うまっ」と感動の声がでた。

あとでコツをおそわって練習に付き合ってもらった。サイドミラーをみながら、壁まで十センチくらいのラインを攻めて入れるのが正しいやりかただった。成功したときの達成感はすごかったけど、自信はあんまりついていない…