冒険小説をよむ。発表は1955年で、森下弓子さんの翻訳は1989年。
ロッド・ウォーカーは高校の最終試験で、未知の惑星で十日間を生き残るプログラムに参加する。ほんとうは大学の科目だからあわてて単位をとることはないのに、いまこの勇気を逃したらもう二度と生き残ることはできないという予感にみちびかれる。マトスン先生がやんわり再考をうながすのもどうやら聞こえなくなってしまった。
父は反対していう、命がけの試験になんて参加しないでほしい。実は重病なんだ。そういわれるとロッドも困るが、二言目にはその重病の治療技術があらわれるまでの向こうおよそ二十年、父母はともに冷凍睡眠でやりすごすという。親の独善がかれをみなしごにしようとしながら、おなじ口が挑戦を禁じようとするのにロッドは義憤をおぼえて、超時空ジャンプで未知のジャングルへ飛び出していく。十日後には地球に帰れると信じて、まさかそのまま見放されることになるともしらないで…
恒星間を飛び回ることを人間に許した未来の世界を描くのにはじめ空想科学のことばをおおいに使って盛り上げたあと、試験がはじまればナイフひとつのサバイバルが野生の生活を生き延びさせるさまに科学なんてものはすこしもかかわらない。草食動物を狩り、焚き火に調理させて、洞窟に眠って肉食獣から身を守る。
やがて子どもたちは原始社会を作りはじめて、政治、農業、たまの暴力で村をつくりあげて、よくかんがえる頭をつかって勝手に立派に成長するところがいい。かしこい大学生たちが憲法を作ろうといって、それを書く紙もないところがいい。
何年もすぎてもう地球には帰れないけど、別に帰らなくてもいいやといまでは立派な子どもたちがあたらしい世界をいとおしくおもいはじめたころ、地球とのあいだに超時空ゲートがふたたびひらけば、共同体はあっけなく崩壊だけとドライにみせるところもいい。嫌な気持ちにさせるという意味で読み味は最低だけど、それは単に悪臭のしない文明はないことを素朴にいっているだけのようだ。
若者はただ我慢させられるだけで、救いはないようだけれども、我慢がよりおおきな人間の精神をつくる。ハッピーエンドじゃないこともあるさとおしえて、いくぶん露悪的な大人の世界をおしえることのおもしろい少年向け小説をよむ。