Dan Alexe というジャーナリスト・ドキュメンタリー作家1の映像作品をみる。

カブールにたったひとつシナゴーグがある。廃墟になっていたものをほそぼそと直して使っている。かつては50も檀家がいたものだが、いまではふたりが残るばかりだ。アフガニスタンのユダヤ教者は、彼らが最後のふたりのようだ。

老聖職者のイサクは貧しい。妻は息子を連れてもう20年も前にカブールを去った。檀家もみな去った。タリバンに虐げられないように、イスラームの教えを乞うまでした。ムスリムに魔除けのまじないごとを売ってつましく暮らしている。

ザブロンはシナゴーグのもうひとりの住人で、タリバンから逃れてトルクメニスタンに身を潜めたあと、カブールに戻った彼にイサクは住処をあたえた。しかし映画に描かれていない原因はふたりのユダヤ教者を敵対させた。映画の冒頭はイサクがひたすら罵倒されるようすをみせる。棄教者(goy)! と罵る声はザブロンのものだ。

カメラはやがてザブロンの姿をみせる。巨大な朱色のポリバケツで自家製ワインを醸造している。七面鳥を何羽も屠殺している。どちらの仕事もしもべを使って、ザブロンの顔は脂ぎって腹もたっぷり出ている。商人としての才覚はどうやらたしかなようだ。

モスクにカメラマンを連れて行くと、イサクがかつて司祭のもとをおとずれて教えを乞うたことを語らせて「シャツを替えるみたいに信仰を替える」ようなやつだと罵倒する。「タリバンに改宗を強いられるなんてあるはずない、おれは改宗しなかったんだから。」

しもべのいない部屋でザブロンはひとり肉を食い、ワインを飲む。気持ちよくなって高らかに歌って夜更けを過ごす。

おなじころ、イサクは電気もない暗がりでまんじりと過ごしている。電気を切ったのもザブロンだ。彼がシナゴーグのすべてを盗んでいった。庇を貸して母屋をとられた老聖職者は、いまや公然に「ロバの尻」と罵倒されても、もはや沈黙をもって応答するだけだ。

イサクにしてみれば、家族も檀家もみな去って、周囲は異教徒だらけ。カブールにたったひとり。同胞とおもったユダヤ人には憎まれ罵られる。息子を名乗る知らない男がやってきて、銀行口座を差し出させようとする。そんな金などあるはずもないのに…

カブールで最後のユダヤ人が孤独にさいなまれる個人的な景色を静かに描いて雄弁な映画。いまではタリバンが失地回復したアフガニスタンにシナゴーグは存在しないらしい。

全編がダリー語(ペルシア語アフガン方言)でおそらくは語られている。動画共有サイトには Dan Alexe という古いチャンネルがあって、そこに映画冒頭からの抜粋がある2