こんなにみごとな晴れの日はひさしぶりだ。五連休の中日にやってきた台風が、それまでのグズグズした雲もぜんぶ連れていってくれた。洗濯物をほしてからバイクに乗って出かける。
蔵王エコーラインは蔵王町(宮城)と上山市(山形)をむすぶ観光道路で、春なら雪の壁のあいだを縫うように走らせる。秋なら紅葉をみせる。一年の半分は冬期閉鎖となっている。東京にいたときからいつかいってみたいと意識はしていたけど去年は機を逸した。
二時間もかからないで県央を横断して蔵王についたところまではよかった。しかしそこからは、栃木からきたふうの初心者マークつき旧型プリウスの鈍行運転にブロックされて、追い越し禁止の二車線路をグズグズいく。峠への入口でやっと前があいたとおもったら、続いてはなんと山頂行き路線バスにブロックされて、重々しい車列を引きずって、そのほとんど先頭をダラダラのぼる。もう何十分もこの調子かと想像すればかなわず公衆トイレにいちど逃れて用を足す。
仕切り直しでのぼりなおしはじめれば、ひらけた駐車場があって展望台のようすがみえる。まだ先はあるけどいちど駐めようかとエンジンを止めたところへ猛烈な突風が右から左から押し寄せて、落ち着いて乗り降りすることさえおぼつかない。降りることができたところで、目を離したすきにバイクが勝手に転ばないかとおもえば気が気でない。こうしていちど止めたエンジンを掛けなおして、突風がなかったところで秩序もない危険な駐車場をおそるおそる脱出する。ひさしぶりのエンストをいちどやった。
ほんで、それを出るなり完全なる渋滞があった。どこまであるかわからない車列がピタッと詰まって止まっている。クネクネ道ののぼり坂で、突風も吹いていて、大渋滞になっているというわけ。転ばないように、ずり落ちないように、パニクらないように、というのを5キロばかり、一時間強かけていく。スマホは手元に載せないで走ってきているから、どれくらい続くのかもわからないのがしんどい。もっとも、わかったところでしんどいのはおなじ。心を無にするだけのことだ。
だんだんコツをおぼえてからは余裕を得て、険しい自然の荒々しい格好に驚嘆する。痩せた高山植物が折り重なりながら突風にびくともしないである。淡い草木のしたから赤い土壁がもりあがってのびる。青空をさえぎる峰のむこうに真っ白の雲塊があらわれるやいなや、おどろくべき速度でおしよせて、美しい馬の群れが動くように頭のうえをおおっては去っていく。
もう何年も立ち枯れたままになっているかも知れない巨木が岩のあいまに死んだまま立ち続けている。ちいさな黄色い花がそのまわりにひょこひょこ芽吹いている。下のほうにみえる浅い谷にはひび割れた灰色の地面があって、草木の影はみえなくもないが、灰緑色にくすんだその見かけは生命のみずみずしさよりも老いを連想させる。深く重たい雪は一年ごとにすべての命のうえにのしかかり、彼らはいまかろうじてかすかな息継ぎをしながら、ふたたびおとずれる受難の覚悟を泰然と示し合わせているようだ。
ひどくつまらない渋滞の終わりは、さらに標高の高い展望台へとみちびく有料道路へとなかなかはいれずに待つ列につながっている。ぼくはいまさらそれを待たずにまっすぐ山形県へ向かって降りていく。日差しがあったからよかったものの、風通しのよい夏用の装備では突風が寒くてたまったものでなかった。さっさと暖かい地上に還ろう、といって下って、蔵王エコーラインを完走する。
降りたさきの上山市でお昼を食べる。なんとなく市内へ向かうときに、ドライブイン式の老舗のラーメンショップの看板がみえて、吟味もしないですぐさまここと決めて食べていくことにする。
金ちゃんラーメンという名前のお店で、チャーシューメンの大盛りを食べる。縮れたうどんみたいな麺もチャーシューもやわらかめなのが食べやすくて、ギトギトしすぎていないかしらとかんがえる隙もなくペロリとたいらげた。
けっこう食べたなとおもったとおりに、この日は夜になってももう腹が空くことはなかった。それだけの量を食べさせてひとり八百円というのも昔から変わらないようすを感じさせて、食べ盛りの子どもや孫を連れて家族で食べにきているひとらでにぎわってもいた。
帰り道はすこしだけ南にまわっていく。上山七ヶ宿線をいけば歴史的な街並みが保存されているのがみえる。楢下宿を過ぎて金山峠のほうにいく。おもっていたよりも狭い峠道の、湧き水があふれて道を濡らしているのに気をつけていく。峠のてっぺんに県境の印がある。
宮城県にもどったらそこからは羽州街道をずっといく。あとから知れば、津軽藩、秋田藩、鶴岡藩の大名行列もおなじ峠を越えておなじ街道をとおって江戸まで参勤交代に出ていたらしい。滑津大滝でひとやすみして缶ジュースをひとつ飲む。七ヶ宿湖をかたわらに、またその向こうに遠くダムの門をみる。
手っ取り早く高速道路に乗って、利府でひとやすみしながら帰る。あしたは利府でサッカーの日本代表戦があるらしい。渋滞予測の注意報がそういっているのをみた。
近所までもどればとんぼがたくさん飛ぶ夕方のことだ。日の沈まないうちに洗濯物を取り込んで、長い一日のおしまいです。