大学のサークルでふたつ後輩のNさんが、そのまたふたつ後輩のRさんと結婚なさったのをお祝いにいく。

結婚式はあげないけど、その代わりに六学年にまたがるそれなりに広いサークルの人間関係をあつめて、めずらしい同窓会のようにしましょうという粋なはからいで、ぜんぶで30人以上もあるうち、ぼくたちは学年でいえば上からふたつめの代としておとずれた。

会場は虎ノ門のビールバーで、静岡のWCBというブルワリーの直営店だ。上野で先にあつまったぼくたちがタクシーで到着すれば、会場にはなつかしいおもかげを持った顔がもうあらかた集まりきってある。悪くない音響が “Can I Kick It?” をかけていて、カウンター奥のテレビは阪神と横浜のプレーオフ対決をみせている。NさんとRさんに挨拶する。

一級上で部長をやっていた中国語専攻のDさんは長髪をゆるくウェーブさせて相変わらずのニコニコ顔をみせている。アラビア語専攻のAさんは二年前くらいに高円寺のワイン屋さんでたまたまあったすぐあとに店長と喧嘩して辞めたというけど、ワインの仕事はまだ続けているらしい。イタリア語専攻のSさんはみごとな金髪であらわれて、気さくにシャキシャキしゃべるたのもしさは変わっていない。

二級下の部長だったMくんと、その同級生でいまは奥さんのNさんがいる。おなじ学校、おなじサークルからふたりともおなじ外資の会社にはいったというのは、中野中央図書館の前でばったり会ったときにきいた。痩せぎすのMくんは長髪にバンドマンの格好がよく似合っていて、きけば会社員と二足のわらじでバンド活動をがんばっている。いまは府中のほうに引越して車のある生活をしている。先輩はいまも中野ですか? というので、ぼくは東松島ですといって、遊びにきてねとパンフレットをわたす。

一級下のHさんは、一時おいつめられて自殺未遂をしたとか風の噂にきいたが、いまでは立ち直って新入生のときのように素直なニコニコ顔をみせている。Bさんはいまも栃木の市役所にいて、バイクの免許をとろうか迷い中というから、次までとっておいてくださいと勧める。

美術史のゼミに顔をだしていたペルシア語専攻のSさんは、卒業して就職したあとイタリアの大学院を修了して、いまでは国立博物館に勤めている。さっきまで同期でそこいってたよと話す。気づけばM先生におしえられたことを研究しているのがおかしいなといって笑っている。

英語専攻のIくんが、生肌にミニジャケットを羽織っただけの奇特なファッションで乳首をチラ見せさせながらそこにいる。芸術キュレーターとしての評判はわざわざきかないけど、派手な格好を見せつけられるくらいには実入りも豊かであるようす。村上隆の事務所にアルバイトでもぐりこめたのは先輩がたのおかげですといって、美術手帖の後ろのほうに書いてある番号にアポなしで電話をかけるのを見守ってくれましたよねといわれる。

ポルトガル語専攻のFさんが顔をみせてくれる。未経験だけどベースがやりたいといって入部してきて、新入生歓迎会までの二ヶ月かそこら、部室で特訓した思い出ばなしをしてくれる。いまでもすこしだけ音楽は続けているという。かわいい後輩の長い人生を豊かにするちいさな助けになれていたのだなと教えられて充実した昔語りをする。

三時間ばかりの会はあっという間にすぎる。半分以上がそのまま向かうことになった二次会に途中までだけ顔を出す。

体型が変わったり、み間違えるくらい派手になったやつもいるけど、話しぶりの奥にはなつかしい日の姿がかいまみえる。

みんな年とったね、とわざわざいうほどの年ではないから、その代わりにみんなおおきくなったね、といいたくなれば、おのずとそこにいる全員が兄弟姉妹のようにさえみえはじめる。遠く離れて暮らしていてもみんな忘れていないよ、という幸福な共生感にいつくしみをおぼえる。NさんとRさんはほんとうに粋なことをしてくれた。

十時過ぎのやまびこの最終電車に乗って宇都宮まで下りそこに泊まる。