文化の日はバイクを走らせてやる。冬物のジャケットを出して十時すぎに出ていく。
三滝堂は登米の南三陸寄りにあって、道の駅が三陸道につながっているところでひとやすみしたことがいちどだけあるほかは、通ることはあっても降りたことのなかった場所だ。そこから小川に沿った細道をいけば自家焙煎のコーヒー屋さんがあるというのは近所のひとにきいた。
はじめの計画はこうだった。桃生豊里から若柳金成まで、三陸道と東北道をつなぐ道をおぼえなおす。国道4号にあたったら北へ、一関までいく。猊鼻渓をおがんで今泉街道を陸前高田までいく。大船渡にも寄れたら満点になる。
道をまちがえたのは柳津で北上川をわたるときのことだった。そうと知らないで北(登米)ではなくて東(南三陸)に向かいはじめてしまった。地図をみずに方向感覚だけでいけると尊大におもってきたもので、気づいたときには引き返すのも野暮とおもって、一関に向かうのはわりあいはやくに諦めてそのまま知った道を走る。
自分の方向音痴のせいとはいっても、もっと長く走るつもりでいた予定が短く済んでしまったことになったときに、近くにコーヒー屋さんがあると教わったことをおもいだしていく。この先ふれあい公園とある横道にそれて小川をながめて沿っていく。ほどほどに車のある砂利敷の駐車場があらわれれば、これがコーヒー屋さんかとわかってとまる。
晩秋の山は熟すことも知らずに淡々と深みをあらわして枯れていく。水たまりばかりの浅さをちょろちょろと水が流れていく。コーヒー屋さん IPPO はキャビン風のしずかな佇まいの普請で、おそろしく静かでいて寂しさはない。夏みたいな青空がみえて日差しはあたたかく空気は冷たい。
浅煎りのイエメンモカを一杯にチーズケーキをいただく。キース・ジャレット風のソロピアノが流れている。お客さんはぼくのほかにもう二組三組いて、みんなしずかに座っている。日当たりのいい窓辺の席で背中をあたたかくする。軽くて香りのいいコーヒーをだいじに飲む。講談社文芸文庫で古井由吉を読む。
登米の武家屋敷をとおって、はじめそこをたどるつもりでやってきた若柳への道をなぞってぶらぶら流す。青空を遠景に三羽の白鳥が頭のすぐうえを栗原のほうへゆっくり横切っていくのをみる。とんぼの群れをかいくぐれば、鈍い子かしら一匹だけがぶつかってくるのを二の腕に感じる。若柳のY字路で左にいくべきだったような気もしながら右へとずんずん進んでいってみれば、志波姫の役所とかくりこま高原駅とかがみえてくる。
あとで地図をみながらおさらいをしてみれば、若柳金成にはもうとっくに背中を向けていることがありありとわかるのだった。そうはいってもまだ気づかずに、志波姫ならきいたことがあるという感覚だけで自分を励まして前に前にいってみる。
国道4号とみえてしまえば、どちらが南かくらいはさすがにわかって、大崎に向かって折れていく。築館インターチェンジでようやく東北道をみつける。古川までバイパスを走っていって、ここまでくればさすがにわかるおおきな交差点を東に曲がる。
道の駅でしそ巻きとずんだ餅を買って帰る。四時すぎに家に着けばまだ暗くもなかったけれど、ひとやすみして五時に外をみやればもうずいぶん暗い。